1959年 アメリカ映画 メルヴィル・シェイヴェルスン監督
(The Five Pennies)
これでもか、これでもかと自分のネタを見せつける、 ダニー・ケイの芸風にはすこし疲れる。 しかし、久しぶりに観ると、 やはり達者なアーティストと感心するしかない。 現在は大御所となったスティーヴ・マーティン、 美加と同世代のジム・キャリーなどなど、 影響を感じられるコメディアンは多く、その功績はやはり絶大。 彼が実在のコルネット・プレイヤー&バンド・リーダーであった レッド・ニコルズの半生をセミ・ミュージカルで魅せる本作は、 廃れぬ人気を持つ一作。家族の物語でもあるからだろうか。 一見お涙そそるつくりだが、ミュージシャン夫婦が 平穏な家庭を築く難しさには信憑性あり。 浮き沈みある業界でステージに立たなくなれば、 すぐに忘れられてしまうもの。ファンに責任はない。 母の楽屋で育ち、我が子らも楽屋で育てたから、よくわかる。
”HIMSELF”出演のルイ・アームストロングほか、 ミュージシャンやカメオ出演も多々ありの本作、 ステージのシーンはいつ観ても楽しいが、 お気に入りのシーンは、レッドの妻ボビーが雨の日、行きつけのダイナーに来る場面。 常に強気であるレッドの才能を信じ、仲間のミュージシャンたちにも おもねないボビーは、つわりで気分を悪くしバスルームへ。 ミュージシャンたちは「ありゃあ、2ヶ月だな」「いや、3ヶ月だろ」などと 口にするうち、見る気のなかったレッドのアレンジ譜を声で なぞりはじめ、いつしか管楽器のアレンジが肉声によるハーモニーとなり、 「なかなかイイじゃないか」と納得するに至る。 かくして、レッド・ニコルズ&ファイヴ・ぺニーズはブレイクしてゆくことに。 限りなく映画的、音楽映画的な、名シーンである!
劇中でレッドが放つ 「名人はルイとビックスと僕だけ」という台詞があり、 そういえば、ビックス・バイダーベックには、 イタリアの名匠プピ・アヴァティによる伝記的映画 『ジャズ・ミー・ブルース』があるが、サッチモにはない。 ”HIMSELF”出演しすぎたからかしら?
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