1949年 日本映画 黒澤明監督
禁欲的な物語に必要なのは、
逆にすこぶる野性的なキャラクターかも知れない。
ライオンの如く雄々しき29歳の三船敏郎が、
自身の欲望と闘う医師を演じる。
三船扮する医師は、野戦病院で手術中に、患者の梅毒を移されてしまう。
自らの欲望を封じ込め、職務に励みながら治療を続ける彼のまえに、
病気を移した嘗ての患者が現われる!
全てを贖うように降りしきる雨で始まる、苦悩の物語。
黒澤のカメラワークは、黒白画面を活きいきと躍動させる。
70年以上前の公開時、どれほど斬新であったことか。
ダンサー崩れの見習い看護婦に扮した千石規子の存在感。
のらりくらりと捨て身の告白をするところなど、いじらしい。
雨に流すことの出来ない汗と涙と病。
「僕の欲望は時々わめく。なのに道徳がのさばっているんだ!」
主人公の台詞が心に鳴り続ける。
三船が医師に扮した黒澤作品では、
後の『赤ひげ』(’65)が有名。
”ア”の項で取りあげているので参照あれ。
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