1961年 日本映画 小津安二郎監督
「スズメ百まで踊り忘れず」と、亡き祖母がよく言っていたっけ・・・ 本作は”ウ”の項で紹介した『浮草』(’59)同様に、 小津の数少ないカラー作品(6作)のなかの一作であり、 京都は伏見の造り酒屋の悲喜こもごもである。
妻に先立たれた当主は、家庭を取り仕切る長女の目を掻いくぐり、 ひょいひょいっと着物を着がえ、ひょこひょこ出かけてゆく。 とぼけた表情が似合うまさに”タヌキ親爺”中村鴈治郎扮する当主の 行き先に待つのは、浪花千栄子扮する、嘗てのお妾さんである。
現代劇でもお歯黒みたいに見える浪花千栄子の口元。 子どものころ、彼女の顔が怖くてしかたなかった。 色っぽくて怖い小母さんというイメージの、個性派女優である。
しっかり者の長女に新珠三千代、芯の強い長男の未亡人に原節子、 お人形のような次女に司葉子、そして、憎々し気な演技で場をさらう杉村春子。
昔の「をんな」たちは、只々我慢していただけじゃない。 踊り疲れて倒れていく「をとこ」たちを嗤いながら、 心に炎を隠し持って生き抜いたんだなあ。
火葬の煙に人間の業(ごう)が混じる、ラスト・シーンも忘れ難い名作。
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