1949年アメリカ映画 ウイリアム・ワイラー監督
(The Heiress)
モノクロームの画面に映し出される、細密な刺繍作品。 テーマソングが流れ、はっとする。 ジョーン・バエズの歌った 『愛の喜び』(Joys of Love)の原曲である。 歌詞を想い浮かべると、 これから始まる物語の行く末が不安になってくる。
舞台は1849年、ニューヨーク ワシントン・スクエア。 裕福な医師である父と、一人娘のキャサリンが暮らす屋敷。 二十歳という設定のキャサリンに扮するのは、 当時32~33歳であったオリヴィア・デ・ハヴィランド。 既に一時の母であった。 刺繍ばかりしている内気なキャサリンを、 冷徹な眼差しで観ている父。 理由は、のちに明らかになっていく。 そこに現れる、モンゴメリー・クリフト扮するハンサムで積極的な青年。
オリヴィア、モンティ、父親に扮する ラルフ・リチャードソンの完璧すぎる配役。 殊にオリヴィアはまさに水を得た魚のようにこの役を演じ込む。 『風と共に去りぬ』(’39)のメラニー役のあとに本作を観ると、総毛だつ。 女優ってこわいなあ・・・ そして、オスカー受賞と相成る。
初めて観たときは、結末に衝撃を受けた。
現代なら当然すぎるくらいだが、いくら原作ものとはいえ、
この時代のハリウッド映画らしからぬエンディングであるから。
鏡を活かしたファースト・シーンとラスト・シーンも忘れ難い。
ひとの心が鏡に映ったなら、どれほどの涙が救われるだろうか。
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